愛犬のシニア期のケアについて part2 病気編
2019/05/08 23:59更新
~シニア期は”ありがとう”を交換する時間~
前回の記事http://dogtrend.jp/detail/266では、愛犬のシニア期のステージと、起こりうる変化について述べました。
今回は、シニア期に、気をつけてあげたい病気について触れていきます。
 

1.前回のおさらい

 
人間と同様に、犬の老化にも個体差があります。
一般的に、小型犬よりも大型犬の時計の針が速く進むと言われています。
また犬種によっても、差がありますので、「○歳からシニア」と杓子定規に定義するのは難しいものです。
ただし、いわゆる“老化現象”が見られ始めるのは、6~7歳が目安です。
 
人の時計の5~7倍で進行する犬の時計。
外見で分かる老化だけでなく、直接に見ることのできない身体の中でも老化は進みます。
「老化」とは、簡単に言うと、細胞が衰えていくことです。
 
 
いつまで経っても愛らしく、パピーのような気がしていても、共に暮らすうちに、いつしかご自身の年齢を追い越し、おじいちゃん・おばあちゃんになっていきます。
ですが、そこで、悲観的になることなく、かけがえないcounterpartがシニア期に突入したことを自覚し、受け入れて、「シニア期は“ありがとう”を交換する」大切な時間と考え、心地よく負担の少ないライフスタイルや、ケアを取りいれてみましょう。
 
□シニアの入り口 :小・中型犬7~11歳 大型犬6~7歳
□高年期 :小・中型犬12~16歳 大型犬8~11歳
□老年期 :小・中型犬17歳~ 大型犬12歳~
 

2 シニア期に気をつけておきたい行動・小さな変化

 
心配しすぎたり、マイナスのイメージを持ったりすることは決して良くないことですし、心配しすぎて病気を作ることもあり得ます。
 
しかし、日々の観察の中で「なんとなく違和感」とご家族が感ずることは、後々振り返ってから「あのとき気づいていて良かった」という“しるし”や”サイン”だったということが多々あります。
 
以下は、シニア期のみならず、日常生活において気にかけておくと、小さな変化にも気づいてあげられるポイントです。
 
ただし、生き物という有機体のなかでは、さまざまなことが絡まっていますから、項目がまたぐことが必然的にあり得ます。
観察のひとつの目安のひとつとして捉えるということを忘れないでください。
 
【消化器系 (口腔内を含む)】
□食べにくそうにしている
□口臭が強い
□頭を振る
 
【内分泌系】 
内分泌の働きはホルモンを血液中に分泌することです。
ホルモンは視床下部、下垂体、甲状腺、副甲状腺、膵臓、副腎、生殖器で主に作られ、それぞれの標的器官で代謝を行うための化学伝達物質です。
 
□嘔吐・下痢・食欲不振
□元気消失
□腹痛
□被毛の劣化
□多飲多尿
□筋肉の喪失
□体重減少
□嘔吐、下痢、食欲不振
□感染症の増加
 
【肝臓・代謝系】
□嘔吐・食欲不振
□体重減少
□黄疸
□多飲多尿
□肝性脳症
□腹水
□便の色が白い
 
【腎臓・泌尿器系】
□多飲多尿
□下痢・嘔吐
□食欲不振
□抑うつ気分
□貧血(気味)
□神経障害(ふるえ、ふらつき、けいれん)
 
【心臓・循環器系】
□咳、呼吸困難
□疲れやすい
□腹水
□肺水腫
□貧血(気味)
□神経障害(ふるえ、ふらつき、けいれん)
□四肢(特に後ろ脚)が冷たい
 
【関節系】
□日常動作(散歩、起き上がり、坂道の上り下り)がつらそう
□足をもちあげたまま・着地が弱い
□歩き方に、違和感
□跛行する
 
【その他】
□目の変化(白内障)
□ガン
□聴覚が衰える
 
【こころ】
□お留守番が苦手になる
□甘えん坊になる
□頑固になる
□(多頭の場合)ケンカが多くなる、やきもちをやく
□食べ物の好みが変わる
□失敗したことを気にする
□状況変化に対応しづらくなる
 
 
 
このように列挙すると、心配なことがたくさんあるようですが、完璧を目指す必要はないと思います。
もっとも大切なことは、きちんと声をかけ、会話をして、触れて、日々丁寧に観察して、「いつも」の様子を把握しておくことです。
わたしたち家族は、「病気に詳しくなる」ことよりも、「うちのコについて詳しくなる」ことこそが最も重要なのです。
 
たとえ、獣医師に、「いつもと違うのです」と伝えても、獣医師はうちのコの「いつも」を知りません。
 
ですので、
「いつも○○だけれど、最近□□なのです」と具体的に、的確に伝えられるようにしておくことが
わたしたち家族として、一番にしてあげられることです。それが適切な診断や、一歩先ゆく診療につながります。
それが、うちのコの尊厳を尊重するという姿勢なのではないかと思います。
 
そして、「触られても大丈夫なコ」にしておくこともとても大切です。
診察に行って、獣医師にできればくまなくボディチェックをしてもらうために、触られることがストレスと感じないような練習をしておくことは大切です。
 
日々、歯磨きやブラッシング、身体のチェックをするときに、人に触れられるのをストレスと感じないような習慣をつけておきましょう。
特に、表面にできるガンは、よく触れ合うおうちほど早期に発見でき、早期治療に踏み出すことができます。(しこりを感じたら、触りすぎずにかかりつけ医へ)
 
そして、今は、とても便利な時代ですから、スマートフォンで写真や動画を撮っておくことも、客観的で正確な事実を伝えるのにとても有効的です。
 
 

3 シニア期だからこそ感じる幸せ

 
私事ですが、ときに、我が家の愛犬のパピー時代や、やんちゃ時代の写真を時折 見返します。
今年11歳になるのですが、以前の写真を見ると、毛色も濃く、エネルギッシュだったことを思い出し
共に重ねてきた年月をしみじみと感じ入ることがあります。
 
白髪も増えましたし、瞳にも老化現象が見受けられます。
睡眠時間も増えました。
ですが、長く一緒に時間を重ねた分、阿吽の呼吸のような、瞳と瞳で理解できるようなそんな強い信頼関係が間違いなくできました。
 
絶対的な信頼のまなざしで見つめる姿、11年間、私の帰宅を全身全霊で喜んでくれる姿、胸に抱いたとき、全体重をゆだねてくれるときに感ずる鼓動と吐息。
 
時を重ねた今だからこそ、言葉にし得ぬ愛おしさがあるものです。
 
毎日毎日「今日が最高に愛おしい」と思って11年の年月を重ねてきました。
毎日の愛情の記録更新の積み重ねが、今日という日なのだと思うと、より愛おしく大切に感じられます。
 
きっと、みなさまも共感していただけるのではないかと思い、記しました。
 

4 シニア期に気をつけておきたい代表的な病気

 
以下は、カウンセリングでお受けするもので多く見受けられる病気です。
(筆者の運営している”ゆりかご”のカウンセリングは医療行為ではありません。かかりつけ医の治療方針に抗うことなく治療効果をあげるため、QOLの向上のため、counterpartとご家族のご要望に応じて、アドバイス・伴走します)
 
<内分泌系>
■甲状腺機能低下症■
甲状腺ホルモンは、身体の代謝と血中カルシウム濃度の調整を行っています。
甲状腺機能低下症とは甲状腺ホルモンの分泌低下による疾患です。
 
・体重増加
・被毛が劣化する
・とても疲れやすい
・寒がりになる
・色素沈着(黒ずみ)
 
■甲状腺機能亢進症■
甲状腺機能亢進症とは甲状腺ホルモンの分泌過剰による疾患です。
 
・体重減少
・筋肉が落ちる
・被毛が劣化する
・攻撃的になる
・よく眠る
・猫に多いとされる
 
 
■副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)■
副腎は腎臓の上端に付着する一対の半月状の臓器であり、そこで産生されるホルモンは身体の恒常性を保つために必須であり、なくては生きていけないものです。
副腎皮質機能亢進症は、副腎皮質ホルモンが過剰分泌する病気。甲状腺機能低下症や糖尿病の併発疾患としても生ずる可能性もあります。
 
・腹部の脂肪が蓄積
・筋肉が落ちる
・多飲多尿
・腹部が垂れ下がる(太鼓腹)
・左右対称の脱毛
 
 
■糖尿病■
膵臓から分泌するインスリンの作用不足、または分泌不全によるグルコースの代謝異常を生じる病気。
 
・多飲多尿
・多食なのに体重減少
・感染症の増加
・白内障の併発
・後肢の末梢神経障害
・高脂血症、甲状腺機能低下症、クッシング症候群との併発
・肥満
・血糖値の数値異常
 
 
<腎臓・泌尿器系>
■腎臓病■
腎臓病にも慢性的なもの、急性的なものがあります。
また変異が起こる場所によっても「腎前・腎性・腎後」にも分けられ、とても複雑なものです。
 
腎臓とはそもそも、体内でできた尿素(食事の代謝や呼吸でも発生します)や尿酸などの血中の老廃物を尿中に排泄し、また必要な物質は再吸収をするとても働き者の臓器です。
 
それのみならず体内の水分量の調節や、体液のpHの調整、浸透圧の調整などを行っています。
 
それから、赤血球の生成を促進するエリスロポエチンや血圧を上昇させるレニンなどのホルモンを分泌していたり、
ビタミンDを活性化し、リンやカルシウムの調整を行うとっても働き者なのです。
 
よく、腎臓はザルにたとえられますが、加齢とともに、ザルは目詰まりを起こしていく可能性が高まります。
目詰まりが起こった先には、ザルが破けてしまい、元には戻らないという状況が起こり得ます。
それが腎不全です。
ザルが目詰まりを起こす原因は、加齢ももちろん大きな要因ですが、犬の食性に合わない食生活も大きく関与している可能性が多いようです。
 
・多飲多尿
・下痢・嘔吐
・食欲不振
・抑うつ
・貧血
・神経障害(ふるえ、ふらつき、痙攣)
・充分な水分量を摂れるように管理
・タンパク質からの分解で尿毒症を引き起こす可能性があるため、炭水化物と脂肪がメインの食事へ
 
 
<消化器系>
■膵炎■
消化酵素を含む膵液が膵臓内に滞り、膵臓自体を消化することで炎症が起こるります。
早期治療により完治可能な急性膵炎と、膵臓細胞の委縮や繊維化により完治が不可能な慢性膵炎があります。
異常発見から3日以内が勝負と言われます。
 
・嘔吐・下痢
・血便
・脂肪便
・相当な痛み(祈りのポーズ)
・低脂肪食
・タンパク質制限
・臭いの強い食べ物を絶対に避けること
・回復後も長期管理的に低脂肪を心がける
 
 
<循環器系>
■心臓■
心臓は血液を全身に循環させるための臓器。
心臓疾患にも多種あります(心弁膜症、拡大型心筋症、拡張型心筋症、僧房弁閉鎖不全症、不整脈など)。
大切なことは、早期発見です。かかりつけ医での脈診、定期的な心臓マーカー検査などは必須です。
家では、「安静時呼吸数」をカウントし、管理することができます。。
安静時呼吸数は、熟睡時に1分間に25回以下なら正常ということになっています(理想は15回程度)。
30回を超えるとすぐ病院へ、です。
 
もし、心臓にすでに持病がある場合は、携帯用酸素缶を常備・携行しておくことをお勧めします。
 
また、最近では、グレインフリーフードと拡張型心筋症の相関性も示唆されています
ので食事内容が、適切なものも再確認してみることをお勧めします。
 
・ナトリウムの多い食事は避ける(ナトリウムとクロールのバランスが大切)
 ・タウリン、アルギニン、コエンザイムQ10、Lカルニチンなどをうまく取り入れて、心臓の働きをサポートする
・適正体重を維持する
・水分摂取量をグラフ化する
・運動の制限(興奮させない)
・ビタミンB群が不足しないように気をつける
 
 
<その他>
■腫瘍■
体内の有機システムとは無関係に、異常な細胞が無秩序に増殖する疾患。
その塊(腫瘍・新生物)には、良性腫瘍と悪性腫瘍があり、悪性の方をガンと定義。
   
・高齢犬に多い
・体重減少を防ぐ
・アルギニン、グルタミンで免疫機能をサポート
・ω-3系脂肪酸
(治療に伴う副作用を低減させたり、腫瘍細胞の成長阻害、悪液質の予防、再発防止のため)
・抗酸化物質(βカロテン、ビタミンACEなど)
・化学療法中、放射線治療中は、拮抗するため抗酸化サプリメントは禁止。
 
 
 

5 さいごに

 
今回は、シニア期に起こりやすい心身の変化、かかりやすい病気について、そしてそのサインについてお話ししてきました。
 
大変なボリュームとなってしまいました。
 
何度も繰り返しますが、「病気について詳しくなる」ことよりも、わたしたち家族は 「うちのコを愛し、よく観察する」ことが第一の責任だと思います。
 
よく見ておく、小さな変化に気づく。 そしてその変化が病気なのか老化現象なのかは自己判断しないこと。
なんでも年のせいにしてしまうと、その奥に隠れている病気を見逃してしまいます。
 
シニアになったら、人間と同じように、これだけの老化現象が起こり得るのだということをお伝えしたく、上記を綴りました。
 
大変残念ながら、犬は言葉を自発的に発してはくれませんから。
 
しっかりと観察し、情報伝達をして、診断は獣医師へ。
そして、おうちでできるケアをして、うちのコの尊厳を守る。
これこそが、ご家族でしかできないことなのですから。
 
次回 part3では、家でできる具体的なシニアケアについて、綴っていきます。
 
 
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ゆりかご主宰 潤子

一般社団法人 人と犬の日本共生学協会  潤子(代表理事)

東京大学卒業。臨床心理学、栄養学、動物行動学を学び、一般社団法人 人と犬の日本共生学協会 を設立。


幼い頃から愛すべき犬たちと暮らし、犬という生き物の素晴らしさに惹かれ続け、恋をし続け、今に至ります。

真っ直ぐな気持ちで寄り添ってくれる犬と生きる喜びを分かち合い、言葉を持たぬ彼らの心身の声に耳を傾けるための方法を、ゆりかごの活動を通してお伝えしています。

counterpartであるパピヨンのしずくと凪と暮らす日々が私の宝物です。 理念は”犬のなかに犬を見出すのが自然への敬意”